嗜好性は、いうまでもなく嗜好に接尾辞の性が付いた語である。そのためか広辞苑では嗜好性の項目はなく、嗜好が採用されていて「たしなみこのむこと、このみ」となっている。
「嗜好」は栄養学・食品学分野においては重要な用語なので、この分野の用語辞典には必ず採用されている。しかし「嗜好性」を採用しているの辞典は数少ない。
私の知るかぎり、栄養・生化学辞典と栄養・食糧学用語辞典だけで、前者では嗜好性は「人や動物が好んで食べるかどうかの指標」と説明され、後者では「食物に対する好ましさの度合い」となっている。どちらも好ましさの程度というような意味らしい。なお英語では前者がpreferenceで、後者がpalatabilityと訳せる。
食品の3基本特性に安全性、栄養性、嗜好性があるとされるように、嗜好性はおいしさに関する食べ物の性質と理解してよいだろう。そして「食味」と同じような意味の用語と捉えている。
ただし嗜好性は食味と違っておいしさと混同されることはない。おいしさは安全・栄養・おいしさと並列され、嗜好性は安全性・栄養性・嗜好性と並列されるためであろう。この捉え方は、食品科学分野では一般的である。
そのためか、嗜好性という用語の一般社会での使用頻度は案外低い。食品科学あるいは調理科学分野の専門用語といえる。
さて小難しい話はべつとして、飲み物の「美味しさ」の度合いとして「嗜好性」をとらえるならば、
そのキーワードは、まちがいなく、「味(呈味)」と「香り(芳香)」である。またもうひとつのキーワドとして「色」を挙げるべきだろう。私は嗜好性の3元素とよんでいる。
特に中国茶、日本茶、紅茶といった代表的な茶葉類には、この嗜好性の3元素が長い歴史の中で、研究され、演出されて来た文化、風習をもっている。しかしハーブティーにはあまりその3元素を重要視して発展して来た経緯が見当たらない。
なぜならハーブティーは浸剤(つまり医薬品の剤型のひとつ)という概念が長く受け継がれて来たからである。そもそもハーブティーは「薬」だったのだ。
しかし昨今のハーブティーの浸透度が増すにつれ、人々は慣れ親しんだ茶葉類とハーブティーを「嗜好性」の視点から比較するようになった。だから、嗜好性を考えて作られて来た茶葉と、成分重視だったハーブティーに歴然とした差が生まれてしまったのは致し方ないような気がする。
でも本当にハーブティーには嗜好性は無いのか?
そんなことは無いはず、ただ、これまで嗜好性を気にしてハーブティーを研究する人、淹れる人が少なかった、だけではないのだろうか?
ハーブティーを美味しく飲んでいただくために、嗜好性の3元素を知ることは、きっと楽しいはず。。
(文責 橋口)